残業代裁判の最近の傾向
先日、労働問題に精通している弁護士との勉強会で話題になった未払い残業代の最近の傾向についてお話します。
1.いきなり民事訴訟
これまでは労働審判を申し立てるケ-スがほとんどでした。労働審判の場合は、審理に要する時間が短く、早期の解決が可能だからです。しかし、最近は、労働審判をしないで、いきなり民事訴訟を提起するケ-スが増えています。民事訴訟の場合は、一般的に審理に要する時間が長く、紛争解決までに時間がかかります。それでも民事訴訟を選択するのはなぜでしょうか。未払い残業代を請求する労働者の意識やタイプに変化があるようです。今までは、どちらかというとお金に困っている方が、生活のために未払い残業代を請求するケ-スが目立ちました。そのため、一定程度の譲歩をしても早期に解決したいという意向が強く、労働審判を選択するケ-スが多かったようです。
しかし、最近では、在籍中に労働者や転職先で安定的に収入を得ているような方も、もらえるものはきっちりもらいたいという考えで残業代を請求するケ-スが増えました。このような場合、すぐに生活に困るようなことはないため、早期解決にさほど拘りはありません。また民事訴訟は、労働審判と異なり、代理人がついていれば毎回期日に本人が出頭する必要もなく面倒さもありません。そしてなにより、早期解決のための理由のない譲歩をしなくて済みます。したがって、一般的に労働者側にも譲歩をせまられる労働審判ではなく、いきなり民事訴訟というケ-スが増えているのだと思います。
このようなケ-スでは非常に和解が難しくなります。労働者側の代理人も、譲歩するくらいであれば判決でも構わないという強気のスタンスです。そのため今まで以上に、どういう従業員が、どういう目的で残業代請求をしているのかを分析し、和解のタイミングを慎重に検討しなければなりません。
2.労働者側の主張にも変化
これまで和解をする場合に、労働者は、いわゆる早出時間や休憩時間について、始業時間は一律所定始業時間とすること、休憩時間は1時間とすることについて譲歩することが暗黙のル-ルになっていました。
しかし、最近は、早出残業について、その時間から働いていたことを裏付ける証拠を提出したり、特に運送業の場合は、休憩時間を全く取れなかったと主張したりするケ-スも増えています。
早期解決を望んでいなければ、わざわざ譲歩する必要もありません。早出残業の証拠提出や休憩の実施について労働者から主張がなされ、これと異なる証拠や主張を会社側が出すことができなければ、裁判所としてもこれらの点について、労働者に譲歩するようにとは言えなくなります。これまでは何となく譲歩してもらえた早出残業や休憩時間についても油断できません。早出残業の時間管理、休憩時間の取得の徹底についてあらためて見直しが必要です。
なお、固定残業代については、裁判所・裁判官によって、また事案によって見解がまちまちですが、最近は、裁判官から通常割増、休日割増、深夜割増の割増率が異なることについての言及が増えてきました。
単に固定残業45時間分と定めるでは足りず、どの割増率の割増賃金として支払うのかも明確にしていくことが今後は必須になってくると考えます。