税務・会計情報

タイムカ-ドがないリスクについて

 未払い残業代請求事件において、タイムカ-ドの打刻がない日について、裁判所はどのように労働時間を認定するでしょうか。
①証拠がないので働いたとは認めない。
②証拠はないがとりあえず所定労働時間8時間働いたものとする。
③ほかの日の労働時間から推認する、平均値をとる。
④他の証拠から労働時間を認定する。

1.立証責任は会社が負っていると思った方がよい
 本来、残業代請求においては、残業代を請求する従業員側が「その日」に「何時間」残業したのか立証しなければなりません。タイムカ-ドがなく、その日に何時間働いたのかを証明できない以上、その日は残業したものと認めないのが筋です。
 しかし、判例上②から④はありますが、①はありません。③、④の方法で労働時間が認定されることがほとんどです。
 裁判所は、会社は当然に従業員の労働時間の管理をしているものと認識しています。また労働時間を管理する以上、労働時間に関する資料を当然持っていると思っています。したがって、これらの資料がない場合、裁判所は露骨に嫌な顔をしてきます。どうやって労働時間を管理しているのか、タイムカ-ドは確認していないのか、確認しているのならなぜタイムカ-ドの打刻がないことについて本人に確認しなかったのか、そんな調子です。
 裁判所は、労働時間を管理しない会社は論外だと思っています。そのため従業員の労働時間の立証が若干甘くても、従業員の主張のとおり認定してしまいます。例えば、居酒屋の板前の残業代請求の事案では、客が帰ったあとの片づけ等で30分又は40分程度の時間を要すると認定し、タイムカ-ドが存在しない日であっても従業員の主張とおり終業時間を認定しました。その他にも、最近は、労働者自らが労働時間を記入した手帳を証拠として提出するケ-スが増えてきました。もちろんタイムカ-ド等の客観的な資料が存在する日はその数字を重視しますが、客観的な証拠がない場合、このような手帳の記載であっても、「矛盾しない」、「信用性がないとまではいえない」という理由で採用していることが多くあります。
 とにかく労働時間をきちんと管理しない会社が悪いのであって、従業員が主張する労働時間がおかしいなら、どこかどうおかしいか会社の方で反論しなさいというのが裁判所の本音です。もはや立証責任は会社が負っていると思った方がいいでしょう。
 
2.労働時間の認定はバラバラ
 とは言っても、実際の労働時間の認定は事案によってバラバラです。(裁判官によって?)特に労働審判においては、良くも悪くもざっくりとした認定がなされることがあります。証拠が足りなくても、また証拠を詳細に吟味しないままでも、ある一定のル-ルで労働時間を認定します。固定残業代が無効と判断されるような事案では、逆に労働時間や休憩時間の認定において、若干ではあるものの会社の主張を認めてくれることもあります。
 労働審判の場合は、話し合い、互いの譲歩の手続きであるため、そういう時は、裁判所は従業員に対して、労働時間の立証は従業員がしなければ不十分であるような説得をしているように思います。曖昧な労働時間の認定ですが、少なくとも労働時間の管理ができていなければ、裁判所から厳しい指摘があることは間違いありません。

 以前、労働相談会でタイムカ-ドがあるから労働時間がバレてしまうから、いっそのことタイムカ-ドをなくしてしまった方がよいのではないかという相談を受けました。それは大きな間違いです。もっと悲惨なことになります。タイムカ-ドで管理するか否かはともかく、労働時間を把握すべきであり、管理すべきです。



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