103万円の壁
政府が現状の配偶者控除の見直しを実施し、新たな制度の検討に入っていることはすでに報道されているところです。見直しの主な理由は、現状の配偶者控除が女性の就労意欲を抑制しているからとのこと。そもそも「103万の壁」とは何でしょうか。
収入を103万円以下に抑えることの主なメリット
・自身の所得税がゼロ
・配偶者が勤務する会社から配偶者手当がもらえる
・配偶者控除を得られる など
確かに、収入を103万円以下に抑えるよう働き方を調整することにより、調整しなかった場合に比べより多くの手取りを残すことが可能かもしれません。さらに130万円以下の場合には、配偶者の健康保険の扶養家族として、また、国民年金は配偶者の厚生年金の第3号被保険者となることができます。したがって、103万円以下もしくは130万円以下のメリットを享受しようと就労調整を行うことが合理的かもしれません。
しかし、もっと大きな問題は、企業が控除対象配偶者を対象に配偶者手当を支給していることです。人事院の統計によれば、80%程度の企業に家族手当の規定があり、そのうち90%程度が配偶者を対象としたものです。つまり、103万円以下の控除対象配偶者でなくなることにより、年間何十万かの配偶者手当が支給されなくなります。したがって、必ずしも勤労意欲を抑制しているものは配偶者控除ばかりではありません。
日本を代表する企業の一つトヨタ自動車は、年収103万円以下の配偶者に支払われていた手当をなくす代わりに、子供への手当を1人当たり4倍に増額するという新たな制度を検討しています。具体的には、年収103万円以下の配偶者らに、月額1万9500円が支払われていましたが、新制度はこの配偶者手当をなくし、代わりに今まで子供一人当たり5千円支払われていた子供手当を、月額2万円に増額するという内容です。
専業主婦が当たり前だった時代から、共働きが当たり前の時代に入り、税制も企業の制度も見直しをしなければならない時期に入っていることは間違いありません。しかし、今回の103万円の壁が、税制の見直しだけで女性の就労調整を減らし、社会進出を促進するかどうかは疑問の残るところです。
数年前に扶養控除の制度が「控除から手当へ」と銘打って抜本的に見直しになりました。しかし、ご存じの通り、十分な手当てが実施されないまま控除だけが削減されました。制度の見直しが働き方、生き方を大きく変えるだけに慎重な見直しが求められます。