相続があった場合の消費税の納税義務
平成27年1月1日に相続税の改正が行われてから、半年が経過しました。時間が経つのは早いですね。半年経った今でも改正に関するセミナーはあちらこちらで開催されており、相続税改正の影響度の大きさ、重要度の高さが伺われます。今回は相続に関連し、「共同相続の場合の納税義務」という相続に関する特殊な消費税の納税義務の判定についてご紹介したいと思います。
相続があった場合に、相続人同士が揉めたり、また忙しくてなかなか対応ができなかったり・・・など、様々な理由により、その年中に遺産分割協議を確定できないことがよくあると思います。このように遺産分割協議が確定していない場合、つまり相続財産が未分割状態である場合には、被相続人の事業を承継する相続人は確定しません。では、この未分割の時点での消費税の納税義務は、どのように判定すればよいのでしょうか?
一般的に未分割の場合には、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされていることから、基本通達1-5-5(共同相続の場合の納税義務)にて、「各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の法定相続分に応じた割合を乗じた金額とする」こととされています。
下記の事例をもとに計算方法をご紹介します。
<事例>
① 被相続人:A(小売業を営む個人事業者)
② 相続人:B(配偶者)、C(長男)
③ 被相続人Aの死亡日:平成26年10月15日
④ 遺産分割:平成27年3月31日(相続人Bが事業を全て承継)
⑤ 被相続人Aの課税売上高
平成24年:1,500万円
平成25年:1,800万円
⑥ 相続人Bの課税売上高
平成24年:200万円(特定期間における課税売上高100万円)
平成25年:300万円(特定期間における課税売上高100万円)
⑦ 相続人Cの課税売上高
平成24年:0円
平成25年:0円
<平成26年:相続人Bの納税義務の判定>
① 原則
200万円 ≦ 1,000万円
② 特例
() 特定期間における納税義務の免除の特例
100万円 ≦ 1,000万円
() 相続があった場合の納税義務の免除の特例
1,500万円 × 1/2 = 750万円 ≦ 1,000万円
→ 納税義務なし
<平成27年:相続人Bの納税義務の判定>
① 原則
300万円 ≦ 1,000万円
② 特例
() 特定期間における納税義務の免除の特例
100万円 ≦ 1,000万円
() 相続があった場合の納税義務の免除の特例
300万円 + 1,800万円 × 1/2 = 1,200万円 > 1,000万円
→ 納税義務あり
<平成26年:相続人Cの納税義務の判定>
① 原則
0万円 ≦ 1,000万円
② 特例
() 特定期間における納税義務の免除の特例
0万円 ≦ 1,000万円
() 相続があった場合の納税義務の免除の特例
1,500万円 × 1/2 = 750万円 ≦ 1,000万円
→ 納税義務なし
<平成27年:相続人Cの納税義務の判定>
③ 原則
0万円 ≦ 1,000万円
④ 特例
() 特定期間における納税義務の免除の特例
0万円 ≦ 1,000万円
() 相続があった場合の納税義務の免除の特例
1,800万円 × 1/2 = 900万円 ≦ 1,000万円
→ 納税義務なし
*相続の遡及効による納税義務の再判定の要否
ここからは、あくまで参考の内容ですが、民法第909条の規定により、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずるとされています。そのため、相続人Bの場合、平成27年3月に遺産分割が行われていますが、相続開始時の平成26年10月に被相続人から全ての財産を相続により承継したこととなります。よって、免税事業者の判定となった平成26年の納税義務の判定を再度行う必要があるかという問題が出てきます。
この判定については、国税庁から事前照会に対する文書回答事例が掲示されており(下記URL参照)、相続があった場合の納税義務の免除の特例(消費税法第10条)の適用に当たっては、事業者が、「判定時点」で適正な事実関係に基づき消費税関係法令の規定に従って納税義務が判定されたものである場合には、その判定が認められるものと解するのが相当であるとしています。つまり、再度納税義務の判定をする必要がありません。これは、消費税は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて転嫁していくものであることから、その課税期間が課税事業者に該当するかどうか、特に「免税事業者から課税事業者となる場合」には、事業者自身が「事前に予知」しておく必要があり、このようなケースに対応するため基本通達1-5-5が制定されているためです。
なかなかややこしいですね。また、機会を見つけて、相続に関する特別なルールをご紹介したいと思います。
<共同相続の場合の納税義務 消費税法基本通達1-5-5>
法第10条第1項又は第2項《相続があった場合の納税義務の免除の特例》の規定を適用する場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱う。この場合において、各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の民法第 900条各号《法定相続分》(同法第 901条《代襲相続人の相続分》から第 903条《特別受益者の相続分》までの規定の適用を受ける場合には、これらの各条)に規定する相続分に応じた割合を乗じた金額とする。(平17課消1-22により改正)